TiO2集積化マイクロチャネルチップを用いた光触媒合成反応

1.はじめに

 ガラスなどの基板に作製したμmサイズの流路(マイクロチャネル)を反応場、分析場とするマイクロ化学システムが注目されている。 これは、システムの簡略化、小型化、試料、廃棄物の低減などのメリットに加え、マイクロ空間の特長、すなわち短い分子拡散距離、 大きな比界面積、小さな熱容量等を利用した高効率かつ高機能な分析、合成、細胞生化学プロセス等の期待によるものである。 これまで、マイクロチャネルのサイズ的特長とチャネル内の流れの特性を利用したシステムが報告されてきたが、より汎用的な化学プロセス を構築するためには、マイクロチャネルに様々な化学的機能を付与することが不可欠である。そこで本研究では、機能化の一例として 半導体光触媒のマイクロチャネル集積化とその合成反応への応用について検討を行った。

 半導体光触媒のチャネル集積化にあたっては 後続プロセスとの連続的な接続を考え、薄膜とする。薄膜では触媒分離プロセスが不要となるが、微粒子分散系に比べ比表面積が小さくなるため、 反応効率が低下する。マイクロチャネルでは大きな比表面積を得られるので、薄膜であっても、微粒子分散系に匹敵する大きな比表面積が得られ、 高い反応効率が期待される。さらに、図1に示すように生成物と触媒を空間的に分離し、生成物と触媒の再反応を防ぐことができ、選択性の向上も期待できる。 また、容易に電位を印加できるので、電位を印加しながらの光触媒反応が可能となる。


2.光触媒集積化マイクロチャネルチップの作製

  図2に示すように、光触媒集積化マイクロチャネルチップ(TMC)は上下基板を熱融着法により接合し作製した。 上板には、フォトリソグラフィ、ウェットエッチングにより流路を作製し、下板には、ゾル-ゲル法によりTiO2 薄膜を成膜した。また、TiO2成膜部位にあらかじめ、白金電極等をフォトリソグラフィ-リフトオフ法でパターニングしておけば、 TiO2への電圧印加が可能となり、電位制御下での光触媒反応が行える。

3.酸化還元複合反応への利用−L-ピペコリン酸合成−

 L-LysからL-ピペコリン酸(L-PCA)のワンステップ合成をTMCで行った例を紹介する。バルク微粒子分散系の反応では、 Ar雰囲気下、Pt担持TiO2微粒子をL-Lys水溶液に分散させ、攪拌を行いながらUV照射、微粒子除去後、分析する。 一方、TMCを用いた反応では、Ar飽和したL-Lys水溶液を送液しながらUV照射する。チップ内反応の反応時間は、反応溶液の TiO2薄膜上での滞在時間であり、チャネル断面積と流速により決まる。

 チップ内反応のL-Lys転化率は、 時間とともに直線的に上昇し、約1分で86%(選択率22%、光学純度(ee)50%)に達した。転化速度が70倍程度増加し、 マイクロチップ集積化により高効率な光触媒反応に成功した。また、チップ化により効率的な光照射が可能な上に、 チップ1枚あたりの光吸収量が少なく、多くのチップの積層化が可能であることから、ナンバリングアップ手法により生成量を確保できる。

【関連文献】

  1. Photocatalytic Redox-Combined Synthesis of L-Pipecolinic Acid with a Titania-modified Microchannel Chip
    G. Takei, T. Kitamori, H.-B. Kim
    Catal. Commun., 6, 357-360 (2005)
  2. 酸化チタン薄膜を集積化したマイクロチャネルチップを用いた光触媒反応
    竹井豪, 北森武彦, 金幸夫
    化学と工業, 58(2), 147-149 (2005)