ナノ構造を利用した細胞パターン制御
接着性細胞は、インテグリンなどの接着に関わるタンパク質が凝集した接着斑を介して細胞外に存在する細胞外マトリックス(ECM)と結合し、生命活動を維持している(図1左)。この接着斑は、細胞内で細胞骨格系やシグナル伝達分子と結合しており、接着斑-ECM間結合に伴う相互作用が、生存や増殖、分化制御、機能発現などに関与していることが明らかとなっている。
細胞は分子レベルで変化する足場環境で生存しており、細胞接着の観点からの細胞生態をin vitroの実験系で研究するためには、nmスケールで正確に制御した足場表面が必要となる。本研究では接着斑-ECM間結合に注目し、数百nmの接着斑スケールで制御したナノパターン表面を開発することを着想した。このようなナノパターン表面は、トップダウン的な微細加工技術に加え、基板表面への自己組織化膜形成といったボトムアップ的な表面改質手法を施すことで実現できる(図1右)。
図1 細胞接着
レジスト膜を塗布した石英ガラス基板上にパターンを電子線描画し、レジスト現像後チタン・金をそれぞれスパッタした後、リフトオフにより金属ナノパターンを作製した。さらに金表面にのみ1-オクタデカンチオール(ODT)の自己組織化膜を形成させ、タンパク質吸着を抑制する2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)ポリマー鎖を持つシランカップリング剤を石英表面に修飾することで、親水性/疎水性のコントラストを空間的に制御した(図2)。
ストライプ状に作製したナノパターン表面では、幅が450nm以上で細胞はパターン面積に依存した接着性を示し(図3左)、浮遊状態の細胞より大きい18mm以上のパターン間隔でも1本のストライプラインに接着する細胞が観察された(図3右下)。一方で、250nm幅のナノパターンではパターン間隔サイズに関わらず細胞接着は見られないことから(図3右上)、接着斑に対する細胞接着表面の大きさが、細胞接着の維持に関与していることが示唆される。これらの結果は、細胞形態に伴う細胞-基材表面間の相互作用や機能発現の解析のための有用な表面加工の設計指針となる。
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