マイクロチャネルの親水・疎水塗り分け
従来のマイクロチップ化学は、電気浸透流を利用したバイオ分析システムを目的としてきました。しかし、操作できる溶媒が単一溶媒に限定されてしまうため、汎用的な化学プロセスへ適用することができません。そこで当研究室では、圧力駆動流を利用して水相と油相が平行に流れるマイクロ多相流の形成を実現しています。図1に水/有機溶媒2相流や水/有機溶媒/水3相流の例を示します。その他にも、5相流や気液相流を実現しています。これらのマイクロ多相流を利用することにより複数の溶媒をマイクロチャネルに導入することができます。また、流れの中に複数の化学プロセスを集積化した連続流化学プロセス(Continuous
Flow Chemical Process, CFCP)を開発してきました。

図1 マイクロ多相流
しかし、ガラスマイクロチャネル内で安定にマイクロ多相流を形成することは、限定された流量範囲でしかマイクロ多相流を形成することができません。そこで、マイクロチャネル内では、重力よりも表面張力が支配的であることに着目し、表面張力を制御することでマイクロ多相流を安定化する方法を開発しました。具体的には、水相の流れるチャネル壁面を親水性に、油相の流れるチャネル壁面を疎水性にした親水・疎水塗り分けマイクロチップを作製しました。2枚のガラス基板にマイクロチャネルを作製し、上板はガラスのもつ親水性を利用し、下板をオクタデシルシラン(ODS)修飾により疎水性にして、2枚のガラス基板を貼りあわせたマイクロチップを作製しました(図2)。

図2 マイクロチャネルの親水・疎水塗り分け
修飾していないマイクロチャネル内に水/ニトロベンゼンを導入した場合の写真を図3(a)に示します。油水は立体交差することができず、水は上側のチャネルから下側のチャネルへ、ニトロベンゼンは下側のチャネルから上側のチャネルへと流れてしまいます。一方、親水・疎水塗り分けチャネルでは、油水は立体交差して流れます(図3(b))。これは表面張力により立体交差流を形成するほうがエネルギー的に有利であるからと考えられます。また、水相中に蛍光微粒子を分散させて立体交差流を形成した場合、マイクロチャネル内の流れは低レイノルズ数(Re<1)の層流であるにも関わらず、図3(b)の蛍光画像のように流線は直線にならないことがわかります。これは表面張力が液液界面の流動に大きく影響を与えているためであると考えられます。

図3 マイクロ交差流
【関連文献】
- Stabilization of Liquid Interface and Control of Two-Phase Confluence and Separation in Glass Microchips by Utilizing Octadecylsilane modification of Microchannels
Akihide Hibara, Masaki Nonaka, Hideaki Hisamoto, Kenji Uchiyama, Yoshikuni Kikutani, Manabu Tokeshi, and Takehiko Kitamori
Anal. Chem., 74, 1724-1728 (2002).
- Spectroscopic Analysis of Liquid / Liquid Interfaces in Multiphase Microflows
Akihide Hibara, Masaki Nonaka, Manabu Tokeshi, and Takehiko Kitamori
J. Am. Chem. Soc., 125, 14954-14955 (2003).
- Surface Modification Method of Microchannels for Gas-Liquid Two Phase Flow in Microchips
Akihide Hibara, Shinobu Iwayama, Shinya Matsuoka, Masaharu Ueno, Yoshikuni Kikutani, Manabu Tokeshi, Takehiko Kitamori
Anal. Chem., 77(3), 943-947 (2005).
- Countercurrent Laminar Microflow for Highly Efficient Solvent Extraction
Arata Aota, Masaki Nonaka, Akihide Hibara, and Takehiko Kitamori
Angew. Chem., Int. Ed., 46, 878-880 (2007).