拡張ナノ空間科学 > ナノピラーを用いた毛管凝縮
当研究室では、マイクロ化学チップ内における複雑な化学プロセスを集積化してきた。さらにマイクロ化学プロセスの汎用性を高めるには、気液混在系の化学操作として蒸留操作が重要となる。蒸留操作では、液体から気体への相転移に伴い大きな体積変化が生じるため、マイクロチップ内での安定な流体制御が非常に困難である。また、マイクロ空間の特性から、重力より表面張力などが支配的であるため蒸気と液相を重力によって分離することはできない。そこで、蒸気と液体の分離および流体操作にマイクロ空間の表面特性を利用することを考えた。さらに、凝縮過程にはナノ細孔内で蒸気圧が変化する毛管凝縮現象を利用した新規蒸留操作が実現できると考えた。本研究では、毛管凝縮現象を利用した蒸留マイクロチップの開発を目的とした。
蒸留操作は液体/蒸気分離部と蒸気凝縮部からなる。そこで、蒸留マイクロチップにおいて液体/蒸気分離部と蒸気凝縮部を設計する必要がある(図1)。蒸気と液体試料を分離するために、ウェットエッチング法により2本の深さの異なるマイクロチャネルが隣接した形状のマイクロチャネルを作製し、浅い方のチャネル(サイドチャネル)を疎水的に修飾する。深い方のチャネル(メインチャネル)に水を導入すると、水は疎水的なサイドチャネルに浸入せず、蒸気だけがサイドチャネルに回収できると考えた。また、分離した蒸気を効率的に凝縮させるために、ナノ細孔内でサイズに依存して、蒸気圧が平衡論的に変化する毛管凝縮現象を利用することを着想した。毛管凝縮現象は以下の式で記述できる。
ここで、p∞は飽和蒸気圧、prは毛管内の飽和蒸気圧、γは表面張力、vlはモル容積、rは毛管半径、Rは気体定数、Tは温度、θは接触角である。石英ガラス上での水の蒸気圧を考えると、サイズ100 nm程度より小さい空間で毛管凝縮の効果が期待できる。本研究では、ナノピラーを加工し、ピラーとピラーの間で毛管凝縮させる。
図1: 蒸留マイクロチップの構想図
サイズ依存性を調べた。
まず、図2のようなチップを作製した。液体/蒸気分離部は、チャネル内に浅い部分(深さ10 µm)と深い部分(深さ30 µm)を持つマイクロチャネル(幅700 µm)を作製した。浅い部分のみにフッ素樹脂を塗布し、疎水性にした。ナノピラーの隙間の部分が蒸気凝縮部として働く。蒸気凝縮部には異なるサイズをもつナノピラー群を作製した
蒸気/液体分離部と蒸気凝縮部を25 ℃にし、1 µl/minで純水を流した。液体/蒸気分離部で分離された蒸気がナノピラー部分で凝縮する様子を顕微鏡下で観察した。
図2: サイズ依存チップの概略図
25 ℃において、相当直径が405 nm以下のサイズにおいて毛管凝縮が起きることがわかった。
図3: 経過時間と凝縮部分の割合のグラフ
Microfluidic Distillation Utilizing Micro-Nano Combined Structure
Chemistry Letters, 37(10), 1064-1065 (2008).
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