培養マクロファージを利用したバイオアッセイ
細胞などの微生物はその微小な体内で特異性の高い反応を効率的に進めており、通常の化学操作では困難な化合物の合成、分析などに応用可能である。細胞をマイクロチップに培養し、その機能を利用することで、マイクロチップの高機能化が可能であると考えられる。細胞の機能を利用したシステムの一つにバイオアッセイがある。バイオアッセイには、培養した細胞に検定するサンプルを添加してその結果増減した物質の量を定量するという複雑なプロセスがあり、煩雑な操作が多いこと、また貴重な細胞や試薬を必要量以上に消費する点が問題となっている。マイクロチップはこれらの問題を解決する有意義なツールであると考えた。以上をふまえ、培養した細胞に薬物を添加し、細胞産生物の検出という一連の操作を集積化したバイオアッセイマイクロチップ(図1)の開発を目指した。
図1 マイクロバイオアッセイシステムの概念図
パイレックス基板上に細胞培養部・複数の反応のためのマイクロチャネルを作製した(図2)。細胞から放出されたNOは酸素を含む溶液中で硝酸塩と亜硝酸塩となり溶解する。マイクロチャネル内でまず硝酸還元酵素と反応させて亜硝酸塩に還元した後、下流部でGriess試薬と反応させ、生成物を熱レンズ顕微鏡で検出した。チップ内の培養部・酵素反応部・ジアゾカップリング反応部をそれぞれ最適の温度に保ったままで測定を可能にするために、3箇所別々に温度制御可能な温調装置を作製した(図2)。作製したマイクロチップ・温調装置を用いてNO発生剤NOC7を溶解させた標準溶液を測定し、検量線を作成したところ、検出下限は従来法より2桁以上向上した。また、従来法では1時間半ほどかかっていた反応時間をわずか5分程度にまで短縮することに成功した。
培養細胞はマウスマクロファージ細胞株J774.1を用いた。細胞培養部の構造を検討することで、下流のマイクロチャネルに細胞が流れ出ることなく、培養部にのみ均一に細胞を接着させることに成功した(図3)。これらの細胞に、代表的なマクロファージ活性化物質であるリポ多糖を添加した培地を導入し、刺激によって放出されるNOのモニタリングに成功した。従来法に比べ、アッセイ時間の短縮と高感度化を実現した。さらに本システムではエンドポイントのみ測定する従来のバッチ方式では困難なNO放出のリアルタイム測定を可能とした。
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