交流電気浸透を利用した高速マイクロミキサー
1.はじめに
マイクロチャネル内ではバルクスケールに比べて拡散距離が短く、混合時間の短縮が可能となる。しかしDNAやタンパク質など、拡散係数の小さい分子を混合する場合にはチャネル内でも多くの混合時間・距離を必要とする。そこで本研究では、交流電気浸透流(AC-EOF)、即ち微小電極間に交流電場を印加する事で発生する溶液流れを利用したマイクロミキサーの開発を目的とした。
2.原理と特長
図1にAC-EOF発生時のマイクロチャネル断面における流れを示す。チャネル内部の微小電極間に交流電場を印加する事により、電極上でAC-EOFが発生し、チャネル断面では矢印で示す溶液流れが発生する。交流電気浸透では小さな印加電圧(数V、数百Hz)で大きな流れ(~mm s-1)を得ることができ、またチャネル内への電極の作製も容易な操作であることから、チャネル内での溶液混合に適した手法であると考えられる。
図1 AC-EOF発生時のマイクロチャネル断面における流れ
3.電極形状の工夫と混合の実証
最も基本的な溶液混合として、チャネル内に等流量で流れる2液の混合を考える。高速混合の為には、2液の境界を横断するようなAC-EOFを誘起し、物質移動を促進することが重要である。そこで本研究では電極間ギャップを蛇行させることにより、AC-EOFの向き及び大きさを周期的に変化させ高速混合を実現した。混合の様子を図2に示す。電位印加前は2液はほとんど混合しないのに対し(図2(a))、電位印加により2液が迅速に混合し、蛍光試薬がチャネル全体に広がる様子が観察された(図2(b))。
図2 AC-EOFによる混合の様子
4.性能評価
チャネル横断方向の蛍光強度分布から混合率を評価した結果、線速度4~12 mm s-1の流れを0.18秒で混合できることがわかった。これは拡散のみによる混合に比べおよそ20倍速い。また既存のマイクロミキサーと比べ混合時間も短く、作製も容易であることから今後のマイクロ化学プロセスにおける有用な混合法の開発に成功したと言える。
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